情緒よりも主観。

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『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』で表現される世界の彩り

わたしたちの世界を彩るものはなにか。それは「言葉」なのだと思わせるアニメが、この『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』である。

 

主人公の少女ヴァイオレットは、上官で保護者のギルベルトに見出され、少年兵として戦場を渡り歩いていた。決戦にて両腕を失い、ギルベルトとも別れて生きることになる。

少年兵としての生き方しか知らないヴァイオレットは、最後にギルベルトに告げられた「愛してる」の意味がわからなかった。

ギルベルトが旧友のホッジンズに後事を託していたことが巡り巡って彼に雇われることとなる。郵送業をこなすうち、文字を書けない人の代わりに手紙などを書く自動手記人形=ドールとして働きたいと願い出る。

すべては「愛してる」を知るために。

 

世界を彩る「言葉」、それをヴァイオレットに初めて与えたのはギルベルトであることは覚えておくべきだろう。まず彼は少女を「ヴァイオレット」と名付けた。会話を試み、読み書きを教えたのも彼である。彼女の世界は多様な「言葉」を得て広がり、最終的にギルベルトをも必要とはしなくなったが、それでも彼女の世界の根幹には彼がいる。*1

 

ヴァイオレットが「愛してる」に辿り着くまでには様々な事件が起きる。

彼女が世界を語る言葉は「戦争」に関するものしかなく、それ以外については「わからない」。そのため依頼人の感情を汲み取ることができず、初めのうちに書いたものは手紙として成り立たなかった。

彼女はドールとして働くうち、世界を彩る様々な人間模様を目にすることとなる。描かれる人間関係は世界に存在するあらゆる愛だ。兄妹の、親子の、友人同士の、恋人たちの間で交わされる感情を言葉にしたためるうち、ヴァイオレットは「戦争」以外の「わからない」ものにも名前があることを学び、自身の心を揺さぶるなにかにも名前があることに気づいていく。その一期一会の積み重ねが非常に魅力的だ。

 

彼女の世界を形作るなにかに名前がつけられ彩られるほど、働き始めた彼女に向けてホッジンズが伝えた「君は燃えていることに気づく」という言葉が響く。ギルベルトの兄ディートフリートがヴァイオレットに放った「お前は人を殺した手で人を結ぶ手紙を書くのか?」という台詞がその核心を突く。

「言葉」を知った彼女は、世界の多彩さに気づくと同時に、自身の過去にも向き合っていくことになる。「言葉」はヴァイオレットが「わからない」と蓋をしてきた様々な感情に名前を与え、彼女が戦争で心に傷を負ったことも否応なく理解させていく。自分が傷ついていることも、「言葉」がわからなければ「わからない」。彼女が「全身が燃えています」と涙するシーンは、つらいものであるものの、彼女の心の成長を最も強烈に描いていると思う。

 

ヴァイオレットはギルベルトを守れなかったことや、数多の兵士を屠ってきた過去もあり、生きて幸せになることに罪の意識を抱いていた。その彼女を救うのはギルベルトではない他者による「言葉」だった。

ヴァイオレットが感情を語る「言葉」を手にする過程で、依頼主たちも自身と向き合うことになる。依頼主たちは彼女が苦心して綴った言葉によって自己や他者との関係を見つめ直し、その思いがヴァイオレットの世界に新しい言葉を与える。ヴァイオレットは依頼主の心を手紙にすることで彼らを救ってきたのだが、依頼主たちの存在がヴァイオレットを救うのだ。「言葉」が反響する、その構図がとても美しい。

 

ヴァイオレットという少女の生き様と、彼女が辿り着いた「愛してる」がどんなものか、見届けてもらえたら幸いである。

*1:これはまったくの余談ですが、ふたりを引き合わせたのがディートフリートなのまじでめちゃくちゃ萌えるのです。