情緒よりも主観。

うたプリやアニメや映画について、思ったことをいろいろ書くオタクブログです。

【Web再録】『Free!』非公式感想同人誌 ~遙と凛に偏っています~

注意事項

本書はいちオタクが『Free!』シリーズを総括した感想本になります。

カップリング要素はないつもりですが、わたしは『Free!』を“遙と凛の物語”として捉えたため、ここから先の感想も遙と凛やふたりの関係に偏ったものになります。念のためご注意ください。

 

 

はじめに

本書をお手に取っていただきありがとうございます。

まずは自己紹介がてら『Free!』シリーズとの出会いの話をさせてください。『Free!』シリーズのことは放送が開始された2013年から認知していましたが視聴には至らず。2017年春頃に家族の付き合いで『劇場版 Free! -Timeless Medley- 絆』を観ましたが、そこでもなぜか視聴チャンスをものにできず。結局本格視聴に至ったのは2019年の夏。映画館で流れる『劇場版 Free! -Road to the World- 夢』の予告が異常に気になる……! まあ映画観る前に過去作をきちんと見よう、ということで、dアニメストアで見られる分を見始めたのが、『Free!』シリーズとの出会いでした。その時点では、ハマるにはハマったがものすごく狂うみたいな感じにはならず「続編出るなら観に行くぞ〜!」というところに決着しました。

では、なぜこの本が存在しているのか?

それは膝に『劇場版 Free! -the Final Stroke- 前編』を受けたからです。

その衝撃はすごく、公開日の2021年9月17日からこの本が出るに至るまでに、回数重ねるつもりなかったのに8回観るわ、シリーズ2周するわ、自分でも信じられないくらいの足の取られ方をしています。

折角これだけ狂ったし、『劇場版 Free! -the Final Stroke- 後編』が公開される前にシリーズを総括した感想文書いて本として残そう、という発想のもと、本書ができました。内容は「遙が自らにかけた枷」「遙にとって凛とは何者か?」「壁の乗り越え方はもう遙の中にある」の3本立てです。

いちオタクの妄言として、お楽しみいただければ幸いです。

 

 

表記について

dアニメストアの配信を利用して視聴したため、セリフやシーンがソフト版とは異なる場合があります。

また本文では聞き取ったセリフの抜粋を行っていますが、ニュアンスを表現する記号はわたしの受け取り方を踏まえて表記しています。

また、以降の本文では下記の略称表記を使用します。

Free!』:1期

Free! -Eternal Summer-』:ES

映画 ハイ☆スピード! -Free! Starting Days-』:HS

『劇場版 Free! -Timeless Medley- 絆』:TM絆

『劇場版 Free! -Timeless Medley- 約束』:TM約束

『特別版 Free! -Take Your Marks-』:TYM

Free! -Dive to the Future-』:DF

『劇場版 Free! -Road to the World- 夢』:RW

『劇場版 Free! -the Final Stroke- 前編』:FS前編

 

 

遙が自らにかけた枷

ひとつめの枷

これはセリフから見るのが一番早いので早速引用します。

 

「十で神童。十五で天才。二十歳過ぎればただの人」(1期1話・遙)

 

遙を象徴するセリフですね。シリーズを重ねるたびに出てくるこの言葉、FS前編のラストでは見事呪いの言葉と成り果てていたことに気づかされます。

この言葉こそ遙が自分にかけた枷ですね。二十歳を過ぎたら“ただの人”になってしまう。

高校三年生の時期に特に顕著だっただけで、遙は基本的に将来のことを考えるのが苦手なように見えます。それは“ただの人”になったあとのことを考えられないからでは?

では、遙にとって“ただの人”とはいったいなにを指すのでしょうか。わたしは“水を感じられない人”のことだと考えています。

 

「水は生きている。ひとたび飛び込めば、そいつはたちまち牙を向き襲い掛かってくる。だけど、恐れることはない」

「大事なのは、水を感じること」(1期1話・遙)

 

「水は生きている。ひとたび飛び込めば、そいつは牙を向き襲い掛かってくる。だけど、恐れることはない」(ES1話・遙)

 

「確かに水は生きている。どんなに成長し変化した体でも、同じように包み込んでくれる。まるで生き物のように。だけど――それはいつまで?」(DF1話・遙)

 

こうしてセリフを追っていくと、遙の水の捉え方が、歳を重ねるごとに変化していくのがわかります。

注目したいのは大学生になった遙。高校生のころまでは、水に対して野生に対するような脅威を感じつつも、同じ“生き物”として恐れず受け入れ続けていました。しかし、十九歳になる年を迎えた遙は、水を“生き物”として感じつつも、そのままであり続けることができるのか、不安を覚えるようになっています。

水を感じられるのは天才である十九歳まで。“ただの人”になったら水を感じることはできなくなる。

無意識にそう思い込んでいても不思議ではありません。遙はそれだけ、水と、「二十歳過ぎればただの人」という言葉と、共にあったので。

だとすれば、遙の刹那的な生き方も納得できるような気がします。

 

ふたつめの枷

FS前編で描かれるアルベルトとの勝負の際、遙は凛にかけられた言葉を思い出します。

 

「勝ち負けや記録に興味がなくても――水の中じゃてめぇが一番だって思ってんだろ?」(ES・凛)

 

遙はアルベルトとの勝負を通して、この言葉を思い出して、自分が生来持っている闘争心を思い出したのではないでしょうか。“水を感じるため”だけに泳いでいた遙が、“勝ちたい”という思いを明確に表明したことは大きな変化だと言えます。

しかし、遙はこうも言います。

 

「なにかを捨てなきゃ生き残れない。でも、捨てたくないと思った」(DF12話・遙)

 

遙はいまの自分のまま、仲間の存在に支えられた自分のまま、“勝ちたい”と思っていたはずです。だから、FS前編で凛が下した決断に動揺してしまった。いつまでも競い合っていけると思っていた凛と泳ぐ機会が失われてしまった。

遙が凛を失うのはこれで2度目ですね。1度目は、“中学一年生の冬休みの勝負”です。

この勝負がこの結果でなければ『Free!』が始まらない、かつ、物語の要所で繰り返された挙句、FS前編のラストに重なっていくところが、本当に、すごいです。

では、この“中学一年生の冬休みの勝負”が、遙にどんな影響を与えた/与えているのか、分解していきましょう。

“中学一年生の冬休みの勝負”の真相は、凛が1期11話で語った通りなのですが、それはあくまで凛の視点においての真相なのですよね。“中学一年生の冬休みの勝負”を遙の視点に立って言語化すると、「遙は勝負に勝ったことにより、凛を傷つけてしまった上、目の前から凛が去った」となります。怜が遙たちにその真相を伝えて誤解は解けたものの、その後何度も凛が去る光景を思い出すほどには、遙のトラウマになるようなできごとです。

トラウマの原因になるようなできごととして、下記が挙げられます。

 

トラウマの原因になるようなできごと

(中略)

〇 家族や友人の死の直接的な体験、その他の喪失体験 など[1]

 

凛が遙の前を去ったのは、“友人の喪失体験”と言っていいでしょう。

“友人の喪失体験”は、もうひとつあります。TM絆の最初のシーンで、水泳部を退部した遙とすれ違う郁弥が描かれます。

 

「なんで水泳やめるんだよ……ハル……」(TM絆・郁弥)

「――ああ、同じだ」(TM絆・遙)

 

遙は自身が水泳をやめることで、郁弥のことも失ってしまいます。

ちなみに遙は残される痛みを“中学一年生の冬休みの勝負”を通して知っているので、郁弥に酷いことをしたという自覚があります。しかし、凛は自分が原因で遙が水泳をやめたこともそれで遙が傷ついたことも知りません。この遙と凛の非対称性については後述します。

このような経緯から、遙にとって“勝つこと”は“友人の喪失体験”と強く結びついていると考えられそうです。

遙は“勝ちたい”という自分の気持ちに気づきました。しかし、“勝つことで失う”経験を重ねてきており、それが“勝つためにすべて捨てる”ところまで突き抜けてしまった原因だと思います。

 

 

遙にとって凛とは何者か?

ここまで遙の話題に重点を置いてきましたが、そんな彼を語るにおいて、切っても切れない存在が凛です。この章では遙にとって凛がどんな位置づけの存在なのかを明らかにしたいと思います。

 

凛にとっての遙

“遙にとって凛とは何者か?”を考える前に、“凛にとって遙とは何者か?”を整理したいと思います。

これに関しては凛本人がまとめてくれているので早速引用します。

 

「この前の大会のときに……お前の気持ちを無視して、一方的に気持ちを押しつけちまった。――悪かったな。けど、これだけはわかってほしい。――俺はずっと、お前に憧れてきたんだ」(ES12話・凛)

 

「なあ、ハル。俺はずっとお前に憧れてきたって言っただろ。お前は覚えてねえかもしれねえけど、俺はいまでも覚えてる。――初めてハルと会った日のこと」(ES12話・凛)

 

ここで凛が遙に向けている憧れの正体や、遙にどうあってほしいのかがきっちり明かされるので、凛はわかりやすくていいですね……。

 

「親父は憧れだった」(TM約束・凛)

 

凛にとって最初に憧れたのは父親の虎一でした。虎一に憧れて水泳を始めた凛は、父親の喪失によってひとり水の中に取り残されてしまう。そんな凛が同じように水の中にひとりでいた遙と“出会って”憧れるのは、なんだか自然というか、フェイトを感じますね。

ところで、シリーズを重ねることによって、凛が遙に抱く感情がどんどん大きくなっていくのがめちゃくちゃおもしろくないですか?

 

「もし一緒に泳いでくれたら――見たことのない景色見せてやる!」(1期1話・凛)

 

最初は“いっしょにリレーやりたいやつ”だっただけなのに、

 

「俺といっしょに世界に行こう、ハル!」(RW・凛)

 

小6の時点でこの認識になっています。でもES12話の話と整合は取れているのですよね……いやでもまあ、昔からずっと“遙に前を泳いでいてほしい”というのは変わらないということですね。

 

余談1・凛と宗介

「いっしょにリレーやりたいやつ、見つけたんだ」(ES2話・凛)

 

わたしは初めてこのシーンを見たとき、「凛はなんて罪な男なんだ……!」と驚いてしまいました。しかし幼い凛と宗介の思想の違いを知ったあとに再びこのセリフを聞くと、意味合いが変化することに気づきます。

 

「考え方が違うんだ。俺とお前はチームにならないほうがいい」(ES4話・宗介)

 

宗介のこの言葉にショックを受ける凛。

この時点で、凛は宗介と“仲間”になりたかったはずなので、先に凛を拒絶したのは宗介です。

であれば、あのセリフは凛の罪ではなく、宗介の罰なのではないか……?

凛が遙を選んだのは、フリーで競ってその存在を知ったことが直接の原因で、宗介の言葉は関係なく、宗介自身も凛が遙を選んだことを気にしていません。なによりふたりはお互いにお互いのことを最大の理解者だと知っているので、だから凛の口から“宗介を思ったがゆえに”あのセリフが出てくる、と。うまいなあ……!

宗介が故障のあとに抱いた夢がそのまま贖罪になっているのもうまいですね。地方大会で、凛や愛一郎、百太郎と本当の“仲間”になること。それが贖罪というか、宗介が自分を許すことができた瞬間なのかなあと思いました。

宗介に関しては、愛一郎にかけた言葉が、凛から自分に与えられた言葉になり、それがさらに愛一郎から返ってきた言葉になった。この言葉の循環が本当に美しいな、と感じています。

 

余談2・遙と真琴と凛

“I Swim”

“Free”

“For the Team”

 

真琴、遙、凛がそれぞれ卒業制作でレンガに書いた言葉です。

わたしは、真琴と凛がそれぞれ遙に与えたものだと解釈しました。

遙を最初にスイミングクラブに誘ったのは真琴です。

 

「ねえハルちゃん! スイミングクラブいっしょに入ろうよ!」(ES6話・真琴)

 

真琴が遙を水の中に誘ったのです。でも、遙と真琴は水の中で結びつかなかった。そんなふたりを“仲間”として結びつけたのは凛なのではないでしょうか。

ところで真琴。次のセリフの意図が本気でわからないので教えてくれないか?

 

「俺も、ハルと真剣勝負がしてみたかったんだ。――なんでだろう。凛が、羨ましかったのかな」(ES6話・真琴)

 

遙にとっての凛

凛は素直でわかりやすくて語りやすくていいですね~。さて、ここまで凛を中心に見てきましたが、いよいよ遙から見た凛の話をしていきます。

とはいえそんなに難しい話ではなく、遙もまた凛に憧れているなあというのは各シリーズからなんとなくは読み取れるのですよね。

 

「凛……俺も、俺も……お前みたいに――」(HS・遙)

 

「俺も覚えてる、その大会のこと」(ES12話・遙)

 

「俺も、凛には感謝してる」(ES13話・遙)

 

これは推測なんですが、遙は水の中で自分と“出会って”くれた凛に感謝していると思うんですよ。でも、遙は凛に対する感情を言語化して表明していないのです……! だから、自分が遙の中でどれだけ大きな存在になっているのか、凛は知らないわけですね。

でも、1回だけ、ちゃんと言っていたシーンもあります。

 

「俺は、お前のおかげで未来に歩き出すことができたんだ。それなのに、今度はお前がまた立ち止まるのか! なぜいまになって水泳を諦めるなんて言うんだ! お前は柿以下じゃないだろ」(TYM4話・遙)

 

ここは折角凛に向けている感情を伝えることができたのに前提がすれ違っていたため伝わらなかったやつです。

その後もう1度凛への本音チャンスがありました。それがFS前編のラストシーンだったわけですが……「凛がいたから戦う気持ちを持てている」と伝えることはできました。よくできました。でも凛がそのボールを受け取れる場所にもういなかった……。

凛が「プロを目指す」と言ったとき、

 

「だったら、ひとつ約束しろ。俺に負けても水泳を辞めるとか言うな。醜態を晒すな。負けても泣くな」(1期4話・遙)

 

このシーンの回想が入ります。このセリフの直前に、

 

「俺はフリーしか泳がない。お前のために泳ぐんじゃない」(1期4話・遙)

「――いいや。お前は俺のために泳ぐんだ」(1期4話・凛)

 

というやり取りが入っているのですが、ここから察するに、凛は、遙を目標にし続けたいけど、遙に依存せずに泳ごうとしていたのでしょうか。“自分が遙の中でどれだけ大きな存在になっているのか、凛は知らない”わけなので、それが、できてしまうと……。

そして、遙はそれを“去った”と受け取った。前章で言及した“友人の喪失体験”の再来ですね。

紫目遙が言ったことは個人的に遙の本音の一部なのだろうとは思います。遙は友人、というか凛が去るのをどんな形であれ恐れているので。まあそれで「じゃあ凛が言われたくないこと全部言ってしまえ!」になるとは……思ってなかったですけどね……。

全部を捨てた遙、意図せずして1期の凛と同じ道を辿っているように見えます。1期の凛が仲間によって救われたように、遙も救われるといいな、と思います。

 

 

壁の乗り越え方はもう遙の中にある

ここはシリーズを2周した視聴者目線で「遙! お前はもうヒントというか答えを持っているぞ!」と思ったセリフを抜粋して連ねていくページ。

 

「俺はやっぱり水泳が好きだよ。――でも、そこにハルもいてほしい」(HS・真琴)

 

「遙。――信念を貫き通せ。リレーも個人もお前の大好きなフリーだろ。過去になんか捕らわれるな。そうすれば、お前は最強なんだから」(HS・尚)

 

「今日ハルが倒れたのを見て、『あ、こいつも普通の人間なんだなあ』って」(HS・旭)

 

「心配しなくても、郁弥はただの人になんかならないよ。郁弥は郁弥なんだから」(DF1話・日和)

 

記憶力がよわよわなのでもう他に思いつかない。でも遙、本当に、もう答えは見えてるからな……!

 

 

あとがき

感想書くのって……ムッズ! 最初はもう少し論点絞って長めに整然と書こうとしていたのですが、全然できませんでした。文体も途中から別物ですし……。

でも、わたしがFS前編のラストシーンを食らってシリーズを2周した衝撃が伝わっていたらいいなあ、と思っています。

最後にわたしが『Free!』に願っていることふたつの話をします。

ひとつは“桐嶋兄弟が揃って世界の舞台に上がること”。なぜならわたしが『Free!』で1番好きな人は桐嶋夏也さんだから。夏也の夢叶ってほしい。なんなら『Free!』に出ている選手の夢全部叶ってほしい!

もうひとつが“遙と凛が世界の舞台でフリーの勝負をすること”。なんなら仲直りだけでもいい。遙と凛が共にある未来をわたしは願っています。

 

 

参考URL

Free! Series Portal Site〈http://iwatobi-sc.com/〉(最終閲覧日2021年11月23日)

dアニメストアhttps://anime.dmkt-sp.jp/〉(最終閲覧日2021年11月8日)

国立成育医療研究センターhttps://www.ncchd.go.jp/〉(最終閲覧日2021年11月4日)

 

 

 

[1] 国立成育医療研究センター『子供のトラウマ診療ガイドライン

https://www.ncchd.go.jp/kokoro/disaster/to_torauma_Ver3.pdf